読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

igglepiggleのロンドン備忘録

MBA留学中に感じたことをつらつらと

EU離脱とトリレンマとナショナリズム

いつの間にか自分が全く詳しくない政治やマクロ経済について書くブログと化している。
留学がこういうことを考えるきっかけになるとは。

さてさて、イギリスの国民投票はEU離脱の勝利。
意外である。直前は残留派が盛り返していたし、賭けサイトのオッズも残留優位だったので、
なんだかんだ最後は残留に転ぶだろうと思っていた。

トランプ氏の台頭や今回の結果に思うのは、グローバル化の反動とも言える世界的なナショナリズムの台頭である。
残留派が勝利した主な理由は2つ。ひとつが勘違い、ひとつは国民性である。

まずは一つ目。経済的な観点。
今回の争点のひとつが移民問題。「移民がEUから大量に押し寄せてきて英国民の仕事を奪う」的な主張であるが、これは説得力に欠ける。

移民が来ることによって新たに消費も生まれる。彼らが消費をすることは国内で新たな仕事が生み出されることを意味する。
しかも、海外に仕事が奪われるのは今の時代人の移動を伴う必要がない。
製造業が日本やアメリカから中国やその他アジアに大きく労働力をシフトしたように、
その国の労働競争力が低ければ移民がいようがいまいが仕事の喪失は起こるのである。
特に低所得者層がこの危惧を持っているが、このあたりについての勘違いが解消されなかったのが一つ目の理由だろうと思う。

この問題を含め、経済的な観点では、雇用、投資、貿易どの側面を見ても残留が好ましい材料が多い。(LBSの教授であるAlex EdmansのBlogの以下のポストがよくまとまっている)

そこで出てくるのが二つ目。経済を超えた国民感情である。
米国のトランプ氏の状況と少し異なるのは、この国では「短期的には経済的にマイナスであることは分かっていても英国の独立性を保つために離脱するんだ」という層がそれなりにいること。

通貨としてユーロを採用せずポンドを使い続けてきたことからもわかるように、彼らは「独立性」に対する執着が強い。
(本部が全て大陸にある)EUに自分たちの運命を決められてたまるか!というのが彼らの思いなのだろう。

先学期のマクロ経済で「国際金融のトリレンマ」を学んだ。
トリレンマとはジレンマ(2つの物事の間で板挟み)の3つ版であり、経済においては、
  • 為替の安定性
  • 自国の独立した金融政策
  • 国家間の自由な資本移動
の3つを全て同時に満たすことは不可能である(2つを取ると1つを諦める必要がある)という理論である。

EUはEU圏内での為替の安定性(共通通貨)と自由な資本移動を可能にした代わりに、
金融政策はEUの単位でしか行えず、国単位では金利の上げ下げや量的緩和をコントロールできないというトレードオフがあった。
すると、国単位では比較的効率の悪い財政政策(政府の収入支出の変動)だけで経済問題に対応しなければならない。それを嫌ったのが今回のイギリスの選択である。
中~高所得者層でも保守、高齢者の層が離脱側についたのはこのような考えからであろう。

ここで、両方に共通して言えることが、「国内での不満蓄積」と「国外への責任転嫁」である。

格差社会という言葉が日本でも聞かれるようになって久しいが、世の中の富の偏重はここ2、30年で激しく進んでいる。
アメリカでは上位1%が全国民の収入の20%を稼いでおり、過去10~20年でその比率は倍以上に膨れ上がった。
そうすると、国全体でのGDPは成長していても、大多数の国民にとっては変わらない或いはより貧しくなっているように感じられるのである。

そこで出てくるのが国外への責任転嫁。
当然政治家は1%からの票だけでは食べていけないので、99%を納得させる必要がある。
そこで、低所得者層の不満(給料が上がらない、失業率が上がるなど)を、移民のせい、EUのせいにするのである。

99%の人たちに言いたい。違う。それらの殆どはあなた達自身や、あなた達が選んだ政治家によるものだと。

日本人は自分も含めて政治に対する関心が低く、そういう意味では危険性が高い。
ちゃんと情報も集めず、投票にも行かず、結果悪くなった時に国外に責任転嫁をするような国民にはなってはいけないなと思った。

===================================
閑話休題。最近友人に勧められ、2008年の金融危機の原因をドキュメンタリー化したInsider Jobという映画を見た。
この映画を見るとアメリカ嫌い、金融嫌いになること請け合いである。上に書いたこともそれを見た影響が出ているかもしれない。
簡単に言うと、
  • アメリカの金融関係の国の主要ポスト(FRB、SEC、大統領補佐など)は元投資銀行のトップ層で構成されているため、政治家は投資銀行が有利になるように制度を作っているし、投資銀行がピンチになったらそれを救済する
  • 投資銀行は一般人には難しいスキームの金融商品を設計し、リスクが高いものをさも安全なように詐欺的に売りつけていた。格付け機関も投資銀行からお金を得ているのでそれに加担
  • 極めつけに、投資銀行はそれが安全じゃないことを知っているので、その金融商品が不払いになったときにお金が入ってくるような逆向きの保険を大量に購入していた
    (この山は安全だから登って大丈夫ですよ、と危険な山を勧めながらその人に生命保険をかけて自分が受取人になってる人みたいな感じ)
あぁ思い出すだけでも虫唾が走る。