igglepiggleのロンドン備忘録

MBA留学中に感じたことをつらつらと

価格から考える日本とイギリスの違い

さて今回は原点に戻ってMBAっぽいお話。

最近は随分慣れた(&為替でポンドが安くなった)が、ロンドンに来てしばらくは物価が高くてやってられないと感じていた。
振り返って考えると、実際に高いというのも勿論あるのだが、価格設定の考え方が日本と違うためによりそう感じられた部分もあるのかなと思う。

今回はロンドン買い物あるあるから、その背景にある考え方の違いを見てみたいと思う。

Case 1. ボリュームディスカウントの感覚が違う

スーパーの500mlペットボトルジュース売り場でよく見る表示
1個で1.5ポンド(約225円)、2個で2ポンド(約300円)
いや、1個買うの馬鹿らしすぎるでしょ。。。

ステーキハウスのセットメニューの価格
300gで20ポンド(約3000円)、500gで36ポンド(約5400円)(肉の部位は同じ)
いや、大きいののお得感ないどころか損なんだけど。。。

ここからの気づくことは、

日本人は値段を考えるとき原価をベースに考えることが多い、
イギリス人は、消費者の支払意思をベースに考えることが多い ということ。

1個目の例で言えば、
例えば仕事の休み時間に寄って今すぐ飲みたい!と思っているお客さんは高かろうが1個買うし、逆に高くても安くても2個は買わない。
一方で普通に買い物に来ている主婦は、家に帰ってから飲むから、高かったら買わないor他のスーパーで買っちゃう。まとめ買いする可能性も高い。

こう考えると1個は高く、2個は安く、というのは非常に理にかなった価格差別の方法である。
(買い手が異なる支払意欲を持っている時、それにあわせて価格差別を行うことで企業は利潤を最大化できる。この時支払意欲が高いグループが低い価格で買ってしまうのを防ぐことが上手い価格差別のコツ)

2個目の例についても、
ボリューム増やしたいと思ってる人は、「今日はお金のことは気にせずがっつりいくぞ!」って気分の人だから、高めに設定しても払うだろう、という考え。
あとはイギリス人の方が算数が苦手だから損だと思いにくいというのもありそうだけど 笑

もう一段深く考えてみると、
日本の方が小売の競争が激しい
ということが言えるかもしれない。

ミクロ経済によれば、完全競争の下ではモノの価格は原価に一致し、
(例えばガソリンスタンドのガソリンなどはこれに近い)
その逆の独占の場合は顧客の支払意欲に一致する。
(例えば野球スタジアム内の売店のビールやアイスはこれに近い)

これに最初の例を当てはめて考えると、
日本は完全競争の近く、イギリスは独占に近いと類推される。

特に1個目のスーパーの飲み物の例はこれでかなり説明できると思う。
日本では、もし今飲み物を飲みたい!という人がスーパーに入って馬鹿高い500mlボトルを見たら、買うのをやめて近くのコンビニか自販機で買うだろう。
コンビニが日本の小売における競争環境のベースを形作っていると言っても過言ではない。恐るべしコンビニ。
(いや、ほんとにイギリスに来るとコンビニの有り難みを身にしみて感じます)

もう1つの説明は、
イギリスは目先の利益重視、日本は長期的な利益を重視
ということ(意識的にというわけではないと思うが)。

例えば最初の例でスーパーが高い価格で飲み物を売ったとする。
今すぐ飲みたい人はこれを買うかもしれないが、この人は「この店は高いな」という印象を持つ。
そうすると次回普通の買い物をしようという時にこのスーパーを選ばなくなるかもしれない。

そう考えると、短期的には高い価格で売った方が良くても、長期的な目線で考えると必ずしも高い価格で売ることが店側のメリットになるとは限らない。
こういった感覚が日本企業の方が強いのではないだろうか。

Corporate Strategyの授業でこんなことを学んだ。
「欧米人に比べて、アジア人は全体論的に(holistically)考える傾向がある」
例えば、ソニーの家電が品質が高いと、ソニー銀行のサービスも品質が高いと思う、
イチローがスポーツ選手として一流なので、政治家としても一流になるんじゃないかと思う(首相になって欲しい人ランキングに登場する)
などなど、ある事象から類推する範囲が広いということ。

だから、スーパーである1つの商品が高いと、「他も高いんだろうな」という類推が働きやすいのだと思う。


Case 2. 思わぬところで追加料金を取られる

フォートナムメイソン(紅茶屋さん)にて
僕「プレゼント用なのでラッピングしてもらえます?」
店員さん「ラッピングは別コーナーで承っております。プラス5ポンド(約750円)かかります
僕「(うわ、高いな。。。)」

ドトールコーヒー的な喫茶店にて
僕「このサンドイッチください」(3ポンドを出す)
店員さん「店内でお召し上がりですか?プラス1ポンドで4ポンドになります
僕「(あ、店内と持ち帰りで値段違うのね。。。)」

レストランで食べたあと
店員さん「こちらお会計になります」
僕「(なんか思ったより高いな。あ、12.5%のサービスチャージ乗せられてる。お金取れるようなサービスされた記憶ないけど。。。)」

ここからわかることは、
日本はモノに対してお金を払っている意識が強く、サービスに対してお金を払っている意識が弱い
ということ。

イギリスでは、
ラッピングはそれに対して追加で人が作業しないといけないから当然追加料金
料理の値段は料理の価値(材料とかコックさんとか)に対するもので、ウェイターや場所代はサービスチャージとして別に請求
ということで、サービスに対価を求めることが当然。

対して日本では、
サービスという日本語が、よく「これサービスしとくね」という風に使われることからも伺えるように、サービス=無料という意識がある。

一消費者としては日本の「サービスは値段のうち」というのはわかりやすいし、日本のサービスの質は軒並み高いから嬉しいけど、働き手の意識としてはイギリスに見習うべき点も多いと思う。
日本人の生産性が低いということが最近言われているが、
「我々の労働(時間)は付加価値を高めるものに対して費やされるべき」
という考えが浸透してないことが、過剰品質や無駄な残業の増加に繋がっているのではないか。

また、それを働き手側が意識しなければ、消費者側も、「これくらいタダでやってくれて当然」という感覚が抜けないと思う。


まとめ

MBAのクラスメイトに、
ガリガリ君の値上げのCMをYoutubeで見たよ。数十年間値上げせず、60円から70円にするだけであの騒ぎってcrazyだな!」
と言われた。(日本人以外が知っていることにびっくり)

個人的には、ガリガリ君は皆から愛されている素晴らしい商品だし、作っている赤城乳業の姿勢も日本企業らしくて良いなと思う。

でも、この例からわかるように、日本人は値上げに対して敏感すぎるし、そのせいでついついコスト削減の方に目が行きがちになっていると思う。
コスト削減もいいけれど、日本は新興国より人件費は高いし、人口が減少していく中で売る量を増やすということも望みにくい。
だからこそ「どうやったら顧客からより大きな対価をもらえるか」という観点で、付加価値を上げて、値段を上げて、ということをもう少し考えていくべきだと思う。
(そうすると自然と消費も活性化されて経済も活発化するはず)