igglepiggleのロンドン備忘録

MBA留学中に感じたことをつらつらと

ドナルド・トランプに見るコモンズの悲劇

今年は世の中を賑わす選挙が多い。イギリスのEU離脱、アメリカ大統領選、ペルー大統領選などなど。日本にいるときは殆ど政治にアンテナを張っていなかった僕も、ここに来て少しフォローしている。

今回はトランプ氏の大躍進から思うこと。

多くの世論と同じく、僕もトランプ氏がここまで票を集めて党の候補になるなんて思ってもいなかった。しかし彼の公約を見ると、なるほどよく票が取れるように練られている。例えば、、
  • 年収2万5000ドル未満の単身世帯と年収5万ドル未満の夫婦世帯は所得税を免除する → 低所得層獲得
  • 銃所持の権利守る → 軍需産業獲得

過激ながら十分にマスが取れそうなところをターゲットにしている。
さすが実業家だけあってマーケティングが得意と言うべきだろうか。

もう1点の特徴は、徹底的に国内の利益を重視し、選挙権がない海外や移民には徹底的に厳しい政策を打ち出しているところ。
  • イスラム教徒に対する米入国一時禁止を呼び掛け、シリア難民は受け入れない
  • 中国、日本、メキシコ、ベトナムおよびインドに対し、自国通貨を下落させ米国からの輸入品を排除することで米国から「略奪している」と非難
  • 中国は通貨を操作していると指摘し、同国の輸出品には相殺関税を課す方針。政府による輸出業者への助成制度を世界貿易機関(WTO)に訴える意向
  • オバマ政権下の環境規制を撤廃し、2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の合意を取り消す

有権者の利益を重視するのは政治家として当たり前といえば当たり前なのだが、特に最後のなどは気になる。

環境問題などは往々にして、各自が自分の利益を最優先すると全体最適ではなくなるという問題を抱えている。
  • 二酸化炭素いくら排出しても、個々の個人、企業や国に対する影響は短期的に見ると限定的。しかも自分が出さなくても他の人が出したら結局同じような悪影響が出るから抑制するインセンティブが働かない
    (いわゆる経済でいうコモンズの悲劇)
これをどうやって回避するのか?

まず考えられる直接的な手段は「教育」。
例えば移民の強制退去は表面的には国内の離職率を下げる役割を果たしそうだが、 人手不足が起きて、2年間でGDPの2-3%が失われるとの試算もある。
マクロな視点で考えればアメリカ自身にとっても決して最適な選択ではないということを伝え、そのような政策に投票しないように呼びかける。
とはいえ、国民全員にそういう視点を持たせるのもなかなか難しそうだし、今の選挙の状況がその限界を物語っている。

では企業の例を参考にしてみてはどうか。
企業で考えると、国の介入と市場原理の2つの抑止力がある。

前者の典型が廃ガス規制だったり、タバコ税(これは単純に税収の意味もあるけれど)。
でも今回のトランプ氏のように国単位でそれをやられた場合、なかなか抑止する方法がない。
小国であれば、国連の経済制裁などの手段があるが(核開発を表明した北朝鮮に対する経済制裁など)、アメリカほどの大国になると国連も手の出しようが難しい。

後者の市場原理は株主を通じた制裁である。
CSRが注目を浴びるようになり、利益を出していても社会に対してネガティブな影響を与えていると思われては企業価値が下がるという傾向はここ10年ほどで随分強くなったと思う。
(VWや三菱自動車がここまで打撃を受けたこともその表れだろう)

国には社会の代理人として監視する「株主」が直接はいない。
だとすると、その役割を担えるのは日本であったりイギリスであったり海外の国々に住む人々だろう。
というわけで、アメリカ人ではない我々にも、このアメリカの動きをフォローし、もし社会にネガティブな動きをするようであれば声を上げていくべきである。
我々の声が国の政治家を動かし、対アメリカの姿勢を変えれば、アメリカだって無視するわけにはいかないはず。

なんて素人ながらに考えていた。
きっと公共政策大学院とかはこういうことを勉強、議論しているんだろうな。