igglepiggleのロンドン備忘録

MBA留学中に感じたことをつらつらと

日本とイギリスの出生率の違い

都知事選では教育・子育てが一大関心事になっている様子。
今は選挙権がないながらも小さい子供がいる身としてはありがたいことである。

http://mainichi.jp/senkyo/articles/20160718/ddm/041/010/112000cmainichi.jp

国の経済にとっての教育・子育ての重要性

先学期のマクロ経済で学んだことのひとつがソローの経済成長モデルだ。
これは、経済成長(GDP成長)は、

資本、労働力、人的資本(Human capital)、その他(TFP)

の4つの要素の掛け算であらわされるというもの。

  • 「資本」は、工場であったりコンピューターであったりビルであったり、経済活動をするための物的な道具。
  • 「労働力」は、読んで字のごとく働く人×時間。
  • 「人的資本」は、労働の効率性のうち、教育などヒトに関わる部分を取り出したもの。
  • 「その他」は、上記以外の残りの要素の影響。

この中で、「資本」は、増やしていくとその限界効果が小さくなり、一方で減価償却が大きくなるので、 日本のような先進国ではこれを大きくすることによる経済成長は見込みにくい。

  • 例えばある人がPCを持っていないときと1台持っているときの効率の差は大きいが、1台と2台は小さく、2台と3台だとほぼ変わらないに等しい。といったイメージ

そう考えると、出生率を上げて「労働力」を増やすか、教育により「人的資本」を伸ばすかしかない。
吉田松蔭の名言にもあるように、
「山は樹を以って茂り、国は人を以って盛んなり」 *1

ということで、経済的に考えても、日本の国レベルで超重要な課題なのである。

高い出生率のイギリス

と、こんなことを考えながらネットサーフィンをしているとこのような記事をみつけた。

www.independent.co.uk

驚くべきことに、イギリスの出生率は過去10年間で18%も上昇したとのこと。
一方で、日本の出生率は過去10年間ほぼ横ばいである。

  • 日本:1.3~1.4、イギリス:1.8~1.9(World Bankより)

イギリスの出生率が高いわけ

これは日本も見習うべきところがあるのではないか?と思ったのだが、そこまで単純ではない。

上記の記事によると、出生率が伸びている最大の要因は、海外からの移民が子供を生む年頃になってきており、移民の高い出生率が全体の出生率を押し上げているということ。
日本も国内だけでの人口成長が見込めないのであれば移民を取り入れるべき!という議論もあるだろうが、これには文化、治安など単純に経済的な面だけでは語れず、日本で短期的に見習うことは難しそう。

2番目は高齢での出産が比較的容易・安全になったこと。
これだけ見ると日本でもそうだろうと思うのだが、

日本は晩婚化、出産の高齢化によって生む年齢がシフトしただけ
イギリスは20代の出産は維持したまま、30代が増えた

という違いがあるようだ。

とはいえ、イギリスは専業主婦が多いかというとそんなことはない。
ロンドンが少し特殊とはいえ、こちらは共働きが当然という感じで、
「your wifeは何の仕事をしているんだい?」と聞かれることもしばしばである。

実際下記のデータで見ても、女性の経済参加率でイギリスは18位、日本は100位以下である。

zunny.jp

イギリスの出生率が(移民の影響を抜きにしても)高いこと、上がってきていることの要因は大きく、
労働市場の流動性
子供ウェルカムなインフラ
の2つだと思う。

労働市場の流動性

日本の終身雇用・年功序列の中では、いかに「産休」「育休」が充実しようが女性にとって働くことは難しい。
大きい会社になればなるほど、同期入社の間で出世競争があり、会社側、女性側共に、「産休」「育休」は事実上のドロップアウトと感じやすいのではないか。  

イギリスはもっとスキルベースのキャリア作り。
休んでいようが何していようが、「こういう経験を何年積んで、こういうスキルがあります」と言えれば採用されるし、 そのように考えて皆が自分のレジュメを意識しながら「マーケティング」なり「人事」なりキャリアを積んでいるように見える。

日本も今後10年~20年でこの辺りは大きく変わっていきそう。

子供ウェルカムなインフラ

ロンドンに生活していると、子供に優しいなと思うポイントが多い。
日本に比べてもそうだが、この前行ったパリに比べても圧倒的にそう思った。

例えば物理的な面では、

  • 多くのレストランに子供用のハイチェアがある
  • バスに大きなベビーカースペースがある
  • 歩道が広く(かつ地形的に坂道が少なく) 、ベビーカーで動きやすい

ソフトなインフラという意味では、

  • 無料の赤ちゃん・子供向けアクティビティーが至るところで開催されている
  • 18歳以下は病院・薬全て無料(これは日本でも自治体によってそうだが)
  • 個人でナニー(保母さん)を雇うことが一般的

また、上記とあわせて、心理的な意味では、

  • 赤ちゃんを見ると皆優しい。老若男女問わず、ニコニコして話しかけてくれる
  • 電車やバスでは若者が必ず席を譲ってくれる

日本での育児経験がないので、公平な評価かどうかはわからないものの、
こういった要素全てが織り合わさって皆が、「子供を産もう」という気になりやすい環境が作られていると感じる。

日本では、子育てといえば待機児童の問題ばかりが取り上げられている印象。
もちろん待機児童の問題は重要だし、保育園は充実してもらわなければ困るけれど、
「保育園作ったらそれで子供増えるでしょ」という考えは甘いのではないか。
それ以外の要素も合わせて、新しい都知事にはより「子供に優しい東京」を期待したい。

*1:あまり知らなかったけど、吉田松陰の名言は良いのがいっぱいある。さすが教育者。
bakumatsu.org